私は夏のボーナスでブラーバに変身して好きな男の子たちが住んで いる家へと急いだ。
家に着いてから変身するべきだったとすぐに気づいたがあとの祭り で、ブラーバとなったこの身体では少しずつしか進めない。
私が掃除したいのはこんな道路じゃない。 そう思いながらも丹念に道路をぞうきん掛けしながら進むしかなか った。
ブラーバになるとはそういうことだった。
私が掃除したいのは好きな男の子たちが住んでいる家の床だった。
この前遊びに行ったら床が汚かった。
しかも床は普通の床じゃなかった、 でこぼこしていて掃除機がかけにくそうだった。
ブラーバだと思った。ルンバじゃない。
料理好きだけど掃除が大嫌いな男の子と何にもしないですぐ寝てし まう私の好きな男の子は仲が良く、 毎日楽しく暮らしている様子で私は憤慨した。羨ましかったのだ。
でも二人とも掃除をしないので、 私はすぐにブラーバだとわかった。
好きな人には綺麗な部屋で暮らして欲しい。
ブラーバとしてしか私はこの二人に関われないとわかったのだった 。
しかしブラーバに変身した途端に私は気づいてしまった。
私が好きな男の子は人間じゃなかった。ロボだった。
人間の時は気づかなかったが自分がお掃除ロボになった今となって はよくわかる。
むしろなぜこれまで気づかなかったのだろうか。
話しかけないと話さない。
充電が切れるとところかまわず寝てしまう。
寝ている姿はまるで死体のようだと思っていた。
まあロボでもなんでもよかった。
むしろ私もロボとなったことでロボ同士より親密になれるかも しれない。
もっと若いころは、 好きな人の部屋の観葉植物になりたいと思っていた。
でも部屋に観賞植物を置くようなタイプには見えないし
でも部屋に観賞植物を置くようなタイプには見えないし
やはり時代はロボ、役に立つお掃除ロボだ!
これほどまでにちぎれそうな気持ちで、 東京中の道路をピカピカにしながら好きな人に会いに行くことなん て、これで最初で最後だろう。
玄関前で私を見つけた彼らは「おっブラーバだ」「 やった飼おうぜ」 とかなんとか言って私を部屋に入れてくれるだろう。
テレビも拾ったと言っていたから、ブラーバくらい拾うはずだ。
私は役に立つ。あなたの代わりに掃除をするよ。
もう部屋は記憶している。
私は毎日せっせとくまなく床を拭きながら、 彼らの会話を聞くだろう。
彼らはここ数年でずいぶんと大人になった。
より正確に言えば、ロボの彼はロボのままだけど
話しかける彼の方が大人になったのかもしれなかった。
昔は金髪だったのに。 今は七三分けにスーツで毎日働いているという。
ブラーバは何年生きられるのか、私は知らないが
私はもうこれ以上大人になっていく彼らを見たくはなかったし
ブラーバとなったことを私は何も後悔しないだろう。
注釈
ブラーバとは2013年にiRobot社から発売された拭き掃除に特化したお掃除ロボの名称である。
世界30カ国で発売され、2016年には余丁町の飲み屋で恋の話と同列に語られるほどの人気を得ていた。
世界30カ国で発売され、2016年には余丁町の飲み屋で恋の話と同列に語られるほどの人気を得ていた。
その姿は四角く、ボタンを押すと動き出す
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