2016年7月4日月曜日

ぽんぴ

フォントがかわいい

東京都美術館でやっているポンピドゥー・センター傑作展に行った。

その日はよく晴れていて、上野公園には人がたくさんいた。
水で地面に絵を描いているおじさんがいた。
立ち止まって観ていたら話しかけられて、私たちのために次々と絵を描いてくれた。
沢山の絵を描いてスッと立ち去るおじさんの後ろ姿と、乾いて徐々に薄くなり消えてゆくおじさんの描いた絵をちょっと不思議な気持ちで眺めていたら、隣に立っていた知らない男性が「ディズニーランドで働いていたらしいですよ」と突然教えてくれて、「なるほど…」となった。

去年、初めてポンピドゥー・センターに行った。
エスカレーターをどんどん上って、パリの街を眺めた。
ポンピドゥー・センターの隣にも公園というか広場と噴水があって、地面で絵を描いている人がいたなあと思いだす。

ポンピドゥー・センターはレンゾ・ピアノとリチャード・ロージャスという建築家が駆け出しの頃にが設計した建築で、パリの現代建築を語る上で外せない存在と言っても過言ではないと思う。ずっと実際に観てみたいと思っていたので、感動した。
ずっと写真で眺めてあれこれ想像していた建築を実際に目の当たりにするというのは何度経験しても興奮する。生きててよかったレベル。
建物だけでなく、常設のコレクションの質の高さにもくらくらした。
時間があまりなくて半ば小走りで観て回った。

ポンピドゥー・センターの建物の写真をたくさん撮った

今回観た展示はそのポンピドゥー・センターの近現代美術コレクションから、1年ごとに1作家1作品を選び、1906年から1977年のタイムラインを辿るというものだった

作品だけではなく作家のポートレイトと残した言葉が展示されていて、そのためか、一作家につき一点しか作品がなく美術史を駆け足でおさらいするような展示なのに、それぞれの作家の個性が際立つというかそれぞれが印象に残る良い展示だったように思う。

会場構成が斬新というか、普通特に絵画などの平面作品は展示室の壁に掛けられて展示され、鑑賞者は部屋をぐるっと回るわけだけど、今回の展示では展示室の中に仮設の壁を自由に配置して、そこに沿って鑑賞者は動く。
各階はトリコロールで塗り分けられ、1階はまっすぐ、2階はジグザグ、3階は円を描くという構成で、動線的にはどうなのという気もしたけれど面白かった。
会場構成を手掛けたのは建築家の田根剛とのこと。
そういえば前に21_21で観たフランク・ゲーリー展でも彼がディレクターを務めていたなあ。

ピカソ、マティス、デュシャンなど有名な作家の有名な作品が沢山展示されていた。
どれもフランス人かフランスで活躍した作家。
絵画や彫刻に留まらず、建築やデザイン、映画、シャンソンまでも展示されていた。

時々知らない作家の作品もあり、それも面白かった。
一番気になったのは霊媒画家、フルリ=ジョゼフ・クレパンの絵だった。
ひと目見てヤバいと思った。

フルリ=ジョセフ・クレパン《寺院》

「寺院」というタイトルでたしかに左右対称の構図でインド風な寺院らしき建物が描いてあるんだけど、空に幾つも顔?霊?思念体?のようなものが浮かんでいる。良く見ると建物の執拗な描き込みも異様で、ユーモラスでもあるし禍々しくもある。

クレパンの言葉としてこう書いてあった、
私は美術館に行ったこともないしフランスの外に出たこともない。 この歳までデッサンも絵画も習ったことはない。 私は何のために描くのだろうか…」

クレパンについて少し調べた
・フランス人のトタン屋職人
・アール・ブリュットの作家としてアンドレ・ブルトンやジャン・デュビュッフェによって紹介された。
紙をハートの形に切り抜いて病人の患部にのせることで治すという民間療法を行っていた(意味がわからない)
・63歳から絵を描き始めた。ある日ひとりでに手が動きだし絵を描き始めたのだという(意味がわからない)
・ある日突然「300枚絵を描いたら戦争が終わる」というお告げを受けて製作に取り組み始める(スピりすぎ)
・1945年、クレパンが300枚目の絵を描き上げた日、ドイツが降伏した(?!)
・さらに「もう45枚描けば世界全体が平和になる」とお告げを受けたが、43枚を描いて死んでしまった。

他にアール・ブリュットの作家としては、セラフィーヌ・ルイの作品も展示されていた。
彼女もパリ郊外で家政婦として働きながら、40歳を過ぎて守護天使のお告げにより絵を描き始める。今回の展示で初めて絵を観た。錯乱しているのに落ち着いている人…みたいな不思議な迫力がある。
彼女の人生を描いた『セラフィーヌの庭』という映画があるそうなので観てみようかな。

ジャン・デュビュッフェ《騒がしい風景》

アンフォルメルの先駆けであり、アール・ブリュットを提唱したジャン・デュビュッフェの作品も展示されていた。電話中の落書きを元に製作したウルループ。

職業的な作家よりも、アール・ブリュットの作家の方が好きだ。英語で言うところのアウトサイダー・アート。
例えばマリー・ローランサンは綺麗で可愛いけれど、クレパンのような意味不明な絵に惹かれる…と思っていたけれど、ローランサンの言葉を観て少し考えが変わった

「もし私が他の画家と距離を感じているとしたら、画家たちが男性で、それが私にとって解き明かすことができない問題だからです。しかし、たとえ男性たちの才能に脅威を感じても、私は女性的なものすべてに申し分のない心地よさを感じるのです」

たしかにこの時代に女性の作家としてここまで確固たる地位を築いた、それも女性的なものばかりを描いて、ということに気付いたし、自分が女性作家であることの葛藤も伝わってくる。

展覧会の最後にはゴードン・マッタ=クラークの建築に穴を穿つ記録映像やポンピドゥー・センターの模型が展示されていた。

9月までやっている展示なので、ポンピドゥー・センターに行ったことがない人もある人もぜひ